左房内血栓(左心耳血栓)描出における心臓造影CTでの「腹臥位」の有用性----腹臥位心臓CT
経食道心エコーを超える診断能を持つ腹臥位遅延相CTを心房細動カテーテルアブレーション、左心耳閉鎖術(切除術)、経カテーテル的大動脈弁植え込み術にどう活かすか
やまかみ内科循環器科 元愛知県立尾張病院循環器病センター 心臓CT担当医 山上祥司
要旨
心房細動カテーテルアブレーション、左心耳閉鎖術(切除術)、経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)では術前に左房内血栓がないことを確認することが、脳塞栓という合併症予防のために非常に重要です。以前は経食道心エコー(TEE)が施行されましたが、造影心臓CTのみで判断され、血栓が陽性に描出されたかたにTEEが施行されることが増えてきていると思います。造影剤体内1巡目であるファーストパス(いわゆる早期相)の仰臥位CTでは、左心耳に血栓の偽陽性がみられることがあります。これは造影剤が左心耳に注入されにくいために起こる現象です。そこで造影剤の量を増やし注入速度を上げ低い被ばくモードでセカンドパス以降(いわゆる遅延相)に撮影すると、TEEをgold standardとして一部に偽陽性のない報告がありますがすべてではありません。一方仰臥位遅延相でも認められた偽陽性をなくすために我々が2003年に報告した腹臥位心臓CTは、重力で造影剤を左心耳に容易に注入でき、その後の報告でもセカンドパス以降の撮影で偽陽性がありません。最近私はTEEが危険を伴う侵襲的検査法であることを知り、安全かつ簡便に左房内血栓の偽陽性をなくす非侵襲的検査法である腹臥位心臓CTを一刻も早く多くの循環器科Dr、心臓外科Dr、放射線科Dr、診療放射線技師の方々に知っていただく必要があると気づきました。
TEEには陰性的中率が98.9%の報告があり、偽陰性が存在します。また術者の技量の問題もあり、血栓を見落とす場合もありえます。脳塞栓の予防には感度100%陰性的中率100%であることが必要で、この診断能は適切なプロトコルによる高機能CTの長所でもあります。高機能CTの長所を活かすためには、TEEでCTの結果を否定するのではなく、CTの偽陽性をなくすことが重要です。偽陽性がなければCTの正診率は100%になります。 2024.1に仰臥位遅延相CTで偽陰性が多い報告がありました。この報告には撮影条件の違いがありますので注意が必要です。
Kawaji Tらの仰臥位遅延相撮影または腹臥位遅延相撮影によるCTの報告では、TEEで疑われた血栓が腹臥位遅延相CTで否定でき、左心耳切除術で血栓は認められず、TEEを超える腹臥位遅延相CTの診断能が示されました。また症例報告では、仰臥位遅延相CTの造影欠損かつTEEの血栓疑いの2例が腹臥位遅延相CTで陰性になり、1例は左心耳切除術が血栓なく無事施行でき、もう1例は経皮的左心耳閉鎖術が可能になったと報告されています。これらの報告は、腹臥位遅延相CTが左房内血栓を診断するためのgold standardとされてきたTEEを超える診断能を持つことを示しています。しかし左房内血栓描出のための腹臥位心臓CTの報告は、症例報告以外わずか6報告(2023.7.3現在)しかありません。
心房細動カテーテルアブレーション、左心耳閉鎖術(切除術)、TAVIの術前検査として腹臥位遅延相心臓CTを多くの方々に知っていただき、(仰臥位の早期相で冠動脈CTとアブレーション用左房3D画像を作成し、)腹臥位遅延相での撮影による左房内血栓の陽性的中率、または有病率の低い場合には偽陽性率(100%-特異度%)の報告をぜひ英文でしてほしいと思います。そして腹臥位心臓CTが認められて広まり、左房内血栓が偽陽性のためのTEEの施行が減ることを期待します。日循のガイドラインではCTで左房内血栓が否定できない場合TEEを施行することになっていますが、TEEで陰性と診断した場合には腹臥位遅延相CTの診断能が高いことと事故の重大性を考慮し、TEEの偽陰性の可能性のため手術の延期を検討していただくことが望ましいと考えられます。
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左房内血栓描出のために心臓CT遅延相は腹臥位で
元愛知県立尾張病院循環器病センター 心臓CT担当医 山上祥司
1993年国立循環器病センターのNakanishiらは心臓CT5分後の仰臥位遅延相で偽陽性なく左房内血栓が描出できることを報告しました。
2003年愛知県立尾張病院のTaniらは上記の方法でも偽陽性の症例を認めました。重力により左心耳に造影剤を容易に注入できる腹臥位CTを施行し、偽陽性なく左房内血栓が描出できることを報告しました。
2019年三菱京都病院のKawajiらは心房細動アブレーション用に早期相を仰臥位で撮影しました。左心耳の描出が悪い場合には、程度に応じて仰臥位遅延相または腹臥位遅延相を撮影し、偽陽性がないことを報告しました。
2021年横浜市立みなと赤十字病院のNakamuraらは腹臥位CTをファーストパスと1分後に撮影し、早期相の偽陽性が遅延相でなくなることを報告しました。
遅延相の重要性が二十数年を要してやっと伝わったところです。仰臥位遅延相で100%診断できる報告もありますが、左心耳に造影剤が注入されにくいために、多量の造影剤の急速注入や低い被ばくモードでの撮影の条件が必要です。
そのため左房3D画像や冠動脈CTの撮影後には、安全で簡便な腹臥位遅延相心臓CTをご検討いただければ幸いです。
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目次
要旨
ポイント
はじめに
1.腹臥位での心臓CTまでの経緯
2. 経食道心エコーの危険性(侵襲的検査)[CTとTEEの画像診断の比較] ★★★CTによる血栓の偽陰性:
[内視鏡付き経食道心エコー][内視鏡付き経食道心エコーの開発の要望の声を富士フイルムに!]
[TEE横断面客観的診断法の提案]
3. 2021年改訂版循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン(日循ガイドライン)
4.心房細動症例における心臓CT遅延造影撮影の有用性(とくに低い被ばくモードでの遅延造影撮影)
[TEE偽陰性の重大性]
5. 心臓造影CTでの「腹臥位」の有用性の報告 [腹臥位の症例報告と演題]
6. 造影の目的による撮影方法の考察
7.心房細動カテーテルアブレーションのための撮影方法
8.画像処理について
9.CTによる左房内血栓の描出のまとめ
[仰臥位CTと比較した腹臥位CTの長所と短所] [腹臥位遅延相心臓CTの診断能]
10.おわりに
11.医療事故から学ぶ
12.追記 愛知県立尾張病院について
13.お断り
14.感想
15.読んでくださったかたへのお願い
16.はがきまたは広告の原稿
ポイント
仰臥位で心臓CTを撮影すると早期では左心耳が染まらないことがある。
左房内血栓の偽陽性
原因
1. 心房細動で心房内の攪拌が悪い、左心耳の血流が低下
2. 造影剤が重いので天井側の左心耳に注入できない
仰臥位での対策
1.染まるまで待つ ---遅延相 1分以降遅いほど偽陽性はなくなるが造影剤が薄くなる
2.造影剤を濃くする---大量急速注入
3.淡い染まりを映し出す---低線量 低い管電圧撮影 または スペクトラルCTでは低いエネルギー表示
この対策で100%の正診率の報告があるが、経験が必要ですべての報告で100%の正診率ではない 遅延像を含む適切なプロトコルが必要とされている
腹臥位にすれば
1分以後で左心耳は重力でしっかり造影される 大量急速注入は不要となる
急速注入をする場合に遅延相が必要ということになる
造影剤を1分ゆっくり入れ続けて1分後に撮影すれば、早期相で左心耳の造影が可能となる (50秒でもよいかもしれない)念のため早期相のあと2-4分後にも遅延相を 我々は早期相撮影後4分でした。
冠動脈CTや左房3Dが必要な場合、仰臥位早期相を撮影しおえたら腹臥位にしてから例えば2分30秒-4分30秒後遅延相撮影を。注入時間が短いと1分では心臓全体が染まらないので。(左心耳を写すのみであれば1分で過剰に染まる。← 初めから腹臥位の場合でした。)
心房細動の循環時間を30秒と仮定します。例えば12秒注入したときファーストパスで造影効果のある波の時間幅が8秒とします。2巡目に1.3倍に広がるとします。すると造影開始から6巡して3分で時間幅は30秒になります。腹臥位にしてから2分半しないと造影剤の波に常にあたることができないことになります。
高機能CTでの冠動脈CT方式では、遅延相には造影剤の総量が少ない可能性があるので、注入時間を長くして造影剤の総量を増やす必要(50-75ml)があります。少ないと心腔内が染まらず血栓の偽陰性が起こります。腹臥位遅延相の低い被ばくのモードの報告はありません。スペクトラルCTでは冠動脈を50keVで造影剤が1/2で施行、下肢動脈を40keVで造影剤が1/3での施行の報告もあり、通常の冠動脈CT方式の量でも遅延相が可能かもしれません。ご検討ください。
何分後がよいか、造影剤の注入速度や注入時間、被ばく量、経食道心エコー(TEE)との比較など英文で報告をお願いいたします。
これまではTEEをgold standardとしたCTの診断能の報告でしたが、腹臥位遅延相CTの診断能がTEEを超えるため、逆のまとめかたが必要になるのではないかと思います。TEEで陽性疑いのもやもやの画像を腹臥位(遅延相)CTではこのようにはっきりと陰性になったと画像で示して、腹臥位CTを仮のgold
standardとしたまとめかたができるのではないでしょうか。
腹臥位遅延相CTの診断能がTEEを超えるため、TEEをgold standardとしたCTの診断能の報告ではなく、真実との比較の診断能の報告が望まれます。
CTの診断能を求めるために真に病気かどうかを検討する手段として1例ずつ下記で真の病気かどうかある程度決められるのではないかと思いますが、どうしたらよいかご検討ください。
1.外科的に手術した場合には血栓の有無
2.CTで血栓と診断したとき、数か月抗凝固療法を継続してCTを再検して血栓像の変化で陽性
3.アブレーション後の塞栓症で偽陰性の可能性
4.D-ダイマーが0.5未満(なるべく低い値)で陰性の可能性大きい
5.心腔内エコーで陰性の確認 エコーの偽陽性はある可能性あり
1と2のみ確定できると思います。手術の多い施設が左房内血栓の検査法の診断能の5項目(感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、正診率)をすべてを報告できると思われます。ほかの施設では偽陽性率の報告が可能と思います。
腹臥位CTでの真の左房内血栓の画像の報告が少ないのが問題と考えています。TEEと腹臥位CTでともに陽性である写真の掲載もお願いいたします。
大学病院では、早急に取り組んでいただけたら博士論文のテーマになるのではと思いますがどうでしょうか。
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はじめに
現在心房細動に対してカテーテルアブレーション治療が多くなされています。下大静脈、右房から心房中隔穿刺をおこなって左房へはいり左房をアブレーションするため、術前に左房内血栓がないことを確認することが、脳塞栓という合併症予防のために非常に重要です。左心耳閉鎖術(切除術)も経皮的、外科的になされています。また経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)においても、心房細動で左房内血栓を合併した症例が多く、ガイドワイヤーが左心耳に迷入して遊離を起こした報告もあり、左房内血栓がないことを確認する必要があります。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1936879816319768?via%3Dihub
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28104212/
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1936879815012935?ref=pdf_download&fr=RR-2&rr=7cf3533bbbe98d12
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26585626/
以前は経食道心エコー(TEE)が施行されましたが、高機能CTの普及により造影心臓CTのみで判断され、血栓が陽性に描出されたかたにTEEが施行されることが増えてきていると思います。最近私はTEEが危険な侵襲的検査であることを知りました。CTを先に受けあとでTEEを受けて血栓がないので手術をすることになった場合、CTで偽陽性がなければTEEを受けなくてもよかったことになります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12544247/
我々が2001年以後におこない2003年に報告した腹臥位による心臓CTは、仰臥位遅延相でも認められた左房内血栓の偽陽性をなくす大きな効果のある安全かつ簡便な方法で、現在もっと普及すべき検査法ではないかと考えています。私の近くにアブレーションを行う病院がいくつかありますが、患者さんに尋ねると腹臥位でCTを受けたと言われる病院は1か所でした。このようにすでに実践されている病院もありますが、より多くの循環器科Dr、心臓外科Dr、放射線科Dr、診療放射線技師の方々にこの腹臥位心臓CTを知っていただくことを願って、このHPに掲載することにしました。
また腹臥位では心房細動アブレーションの左心房3D画像の上下逆の問題が起こりますので、その解決法になるKawaji Tらの文献(Thrombus
study)も紹介させていただきます。
この報告には仰臥位遅延相または腹臥位遅延相を組み合わせ、TEEを超える驚異の診断能が示されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30251193/
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1.腹臥位での心臓CTまでの経緯
心臓CTは非侵襲的検査法として現在冠動脈造影の代わりに行われ、冠動脈の狭窄やプラークの描出、心筋や心房壁の線維化や脂肪変性や浮腫、心内血栓の描出、また心房細動アブレーションの前に施行することで、肺静脈や左房内血栓の描出や解剖の理解にも有用な検査です。仰臥位でおこなうと左心耳に造影の欠損がみられることがありますが、その中でTEEでは血栓はないことがあり、左房内血栓の偽陽性と考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8419437/
1993年国立循環器病センター放射線診療部の中西 正先生は、僧帽弁狭窄症で心房細動の患者に仰臥位で40-60秒間の造影中の早期相、5分後の遅延相で心臓の撮影を施行し、早期相の欠損像は遅延相では消失するため、血栓の偽陽性をなくすことができると報告しました。造影剤イオパミドール370を50-80ml1-2ml/秒で注入し30秒後から6mm厚6mmピッチでの撮影でした。
1990年代当時、通常のCTでは心臓の撮影は動くため困難であり、日本で30数台納入された電子ビームCT(EBT)でしか施行できませんでした。私が勤めていた愛知県立尾張病院にもEBTが納入されることになり、私は1995年に国立循環器病センター放射線診療部で研修を受けました。高宮 誠部長、栗林幸夫先生、濱田星紀先生、今北 哲先生、山田直明先生、高瀬 圭先生、飯野美佐子先生には大変お世話になりました。左房内血栓について、仰臥位では左心耳が血流停滞のため早期に染まらず血栓があるように映り、遅延相で攪拌されるために造影されるので鑑別ができることを教わりました。私はこの研修後、愛知県立尾張病院で心臓造影CTに携わりました。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejm199809033391003
フランスのハイサゲール先生が、肺静脈起源の異所性の電気的興奮をアブレーションすることで心房細動が治療できることを発表したのが、1998年でした。私の通院患者さんで確認すると、その翌年にはすでに愛知県立尾張病院では心房細動アブレーションを施行し、その前後で造影CTを施行していました。当時は肺静脈や肺静脈開口部のアブレーションのため肺静脈狭窄を起こすことが報告されていましたので、アブレーション後にも造影心臓CTを早期相と遅延相で施行していました。造影CTで血栓陽性の場合にはTEEを施行しました。当時EBTでは3mm厚3mmピッチで1枚ずつ40枚撮像していました。造影剤イオパミドール370を注入速度1-1.5cc/秒で1分注入し、注入開始40秒後から70秒後くらいまで撮影していました。遅延相は注入5分後から1枚ずつ40枚の撮影でした。
症例を重ねると、遅延相で陽性でもTEEで陰性の症例がありました。仰臥位での遅延相での血栓の陽性的中率は、(9/13)の69%でした。この現象は仰臥位で左心耳は天井側にあり、造影剤の比重(1.2-1.3)のためと5分での攪拌の悪さ、左心耳のくびれで血流が停滞することから起こると考察しました。血液の比重は貧血がなければ1.052-1.063が正常です。そこで腹臥位で施行すれば、左心耳は地面側になるので重力で造影剤が充盈されると考え、その後は腹臥位で施行しました。腹臥位での早期相と遅延相での血栓の陽性的中率は4/4で100%でした。腹臥位心臓CTは簡便に左心耳の血栓の偽陽性を防ぐことができると考え、2003年上記の英文で谷 智満先生(現しげやす内科クリニック:あま市)が報告しました。
心房細動アブレーションの症例数は当時尾張病院は日本で順位は一桁ではないかと思っていました。不整脈担当は村上善正先生、山田功先生、岡田太郎先生の時代です。山田功先生は当時から論文を多く出され、筆頭著者の論文が150以上となり、ミネソタ大学の循環器科教授をされた後、アラバマ大学に所属されています。
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2. 経食道心エコーの危険性(侵襲的検査)
経食道心エコーは1976年米国のFrazinらにより世界で初めて報告されました。その後日本で名古屋三菱病院内科の久永光造先生、山口大学第二内科の松﨑益德先生により開発と臨床応用がなされました。
私は久永先生のホームページ、松﨑先生の論文とインタビュー記事を読み、感銘を受けました。若い医師の方々にぜひ読んでいただきたいと思い、紹介させていただきます。新しいモダリティを知って臨床応用することは学会発表や論文ができるネタになるのでよくなされていますが、新しいモダリティを思いついて開発しさらに臨床応用されたことはとてもすごいことだと思いました。
https://www.hisanaga-k.net/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcsc/5/1/5_KJ00002082275/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/47/9/47_1143/_pdf/-char/ja
この検査は、食道にエコーの管を入れ心臓の裏側、食道から心臓の状態を観察するために行います。心内、 とくに左房内の血栓の検索や、胸壁からの心エコーでは評価が不十分な弁膜疾患(僧帽弁逆流の原因、僧帽弁狭窄症、大動脈弁狭窄症、弁の感染症)、胸部大動脈の異常、先天性心疾患の診断、心臓大血管手術の評価、
心臓大血管手術中のモニターとして非常に有用です。経食道エコーでしか診断できない場合もあります。(日本心臓病学会:東京大学附属病院の同意書より引用)http://www.jcc.gr.jp/ippan/ic/index.html
現在左房内血栓の描出には、経食道心エコーがgold standardになっていると思います。
しかし経食道心エコーはブラインドで行います。直視下の胃内視鏡でさえ咽頭(梨状窩か?)での穿孔を起こす事故があります。
私への紹介患者の中でも、心臓手術のときに経食道心エコーで穿孔を起こしたかたがあります。この検査の危険性を啓蒙すべきではないかと気づきました。
また検査を受ける患者の苦痛もかなり強いようで拷問という方もあります。そのために私の所属する医局では麻酔をかけてTEEを施行していると聞いています。先日アブレーション後の再発をきたした男性のかたがあり、病院への再アブレーションの紹介を勧めましたが、TEEがいやだからやらないと言って断って帰宅されてしまいました。しかしすぐに奥様から電話があり、紹介状と病院の受診の予約を依頼されています。その後の様子をお聞きすると、その病院では現在まだ麻酔はかけておられないようでした。
心房細動のアブレーションが多くなされ、それにしたがって経食道心エコーの件数も増大しているはずです。おそらく事故が起こっているものと思われます。日本医療機能評価機構(https://www.med-safe.jp/mpsearch/SearchReport.action)によると、2020年の1年に経食道心エコーの事故は4件報告がありました。食道静脈瘤、食道憩室や傍食道型の食道裂孔ヘルニアが禁忌とのことで、先に直視型で調べておかないとこれはわかりません。食道穿孔は予後不良で0.01%以下おこるとのことです。2010年1月から2023年6月までの検索で咽頭または食道の穿孔が11例ありそのうち4例が死亡されています。裂傷は多数で数えていません。2022年現在新型コロナウイルス感染症のためTEEでは感染対策も必要になります。日本心エコー図学会では下記のTEEのガイドラインを設けています。
http://www.jse.gr.jp/contents/guideline/data/TEE_guidelin...
日本心エコー図学会. COVID-19流行期における心エコー図検査に関する提言
http://www.jse.gr.jp/COVID-JSE%20statement_summary.pdf
提言改訂にあたり
http://www.jse.gr.jp/COVID-JSE%20statement3.pdf
2021年国立病院機構大阪医療センターの井上耕一先生は、心臓VOL.53NO11p1153-1158において、アブレーション治療前の血栓評価におけるTEEの役割とその変遷についての論文を書かれています。この中に左房内血栓の診断のgold
standardがTEEであることを2018年改訂版日循/日本不整脈心電学会合同ガイドラインで記載されていることが示されています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/53/11/53_1153/_pdf
その「おわりに」の中で、TEEがアブレーション黎明期の脳梗塞予防に貢献してくれたことについて、それは、患者とTEEに従事する医療従事者の負担とリスクのもとで成り立っていたと思いやっておられます。そして、抗凝固療法とCTの進歩、COVID-19蔓延に伴い、治療の安全性を担保しながら血栓の術前評価の方法も変わっていかなければならないと述べておられ、私案を提言されています。
腹臥位遅延相CTもそのご期待に応えることができる方法ではないかと考えます。
左房内血栓の診断は非常に重要であり、もし偽陰性や見落としにより脳塞栓を起こした場合、患者は生命にかかわったり重大な後遺症を残します。医療側は注意義務違反として賠償を請求される可能性があります。侵襲的検査であるTEEを施行する医師のストレスは非常に大きなものになっているのではないでしょうか。
でもこれからは安心してください。CTと抗凝固療法は進化しています。CTであれば非侵襲的検査であり複数の医師により短時間で客観的に診断できます。CTの左房内血栓疑いの診断結果をTEEで陰性と診断した場合、CTを重視してアブレーションを延期して抗凝固療法を継続しCTで再判定すれば、左房内血栓は見落とされることはありません。CTには仰臥位早期相においてもすべての左房内血栓を診断できる感度100%があるからです。さらに腹臥位遅延相を撮影すれば、1分以降でいまのところ偽陽性がなく特異度100%、すなわち正診率100%です。のちに「TEE偽陰性の重大性」「腹臥位遅延相CTの診断能」や「感想」の後半の統計で説明させていただきます。また抗凝固療法の進化により我々の20年以上前と比べて血栓のある症例が少なくなっていますので、しっかり抗凝固療法をして(事故の記事をみると3週間では不十分の場合あり)腹臥位遅延相CTを施行すれば、腎機能障害や造影剤アレルギーの症例を除いてTEEを施行することがほぼなくなると考えられます。
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[CTとTEEの画像診断の比較]
現在CTの高性能化により、心房細動の症例でさえ冠動脈の描出が可能になりました。心房壁もより鮮明に描出され、モーションアーチファクトもなく、造影剤の濃淡が血栓の診断に影響すると思われます。64列CTのように数心拍で撮影していた時代には、撮影時刻が違うために連続断面にならず撮影がされていない空間が残る可能性がありました。そこに血栓があれば偽陰性になります。しかし256列から320列のCTでは1心拍で撮影時刻が同じの奥行きが16cmの0.5mm~0.625mm刻みのもれのない連続断面の静止画が撮影できます。CTの空間分解能は高く、薄いスライスであれば陰性だと確信をもって診断できます。造影剤で満たされない場合に偽陽性がでます。
櫛状筋(しつじょうきん)と血栓の鑑別ができなくて偽陽性になる可能性があります。
国際医療福祉大学市川病院の船橋伸禎先生は
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/53/11/53_1146/_pdf
p1148において櫛状にみえない場合で,血栓との 鑑別が必要であれば造影剤注入後 6-8分後の造影 晩期に再度撮影する必要がある(晩期には櫛状筋 に造影剤が流入,造影され,血栓と鑑別できるよ
うになる)と示されています。
★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
CTによる血栓の偽陰性:
上記の連続断面ではない場合のほかに、遅延相において心腔内が造影が十分になされないと起こります。仰臥位遅延相での報告がされました。
冠動脈CTのような短時間で少量の注入で発生します。14-20数秒かけて注入し50mlから75mlは必要です。
https://bmjopen.bmj.com/content/14/1/e079876
血栓の多い母集団であり偽陰性が多いと報告される重要な論文です。左心耳の入口部で血栓が小さく流速が早い場合に偽陰性が起こりやすいと報告されています。エコーより時間分解能が悪いためではないか、遅延相の撮影時間が複数の場合には不明であるとされています。
私は偽陰性は造影が悪いために起こったのではないかと考えています。
この報告は35mlを毎秒4-5mlで7-9秒間の注入して遅延相を30秒後に撮影しています。ほかの報告に比べて少ないと思います。
循環時間は正常25秒以下とされています。心房細動はそれ以上かかると考えられます。造影剤の波に当たらない場合に造影効果が悪いことになります。Figure2のBは仰臥位遅延相で偽陰性ですが、造影が悪く偽陽性もあるようにも見える写真です。注入時間を長く、造影剤を多く、遅延相の撮影を遅らせれば、造影剤が心腔を染めることになると思います。
Figure2のEは仰臥位遅延相で偽陰性です。左心耳の入口部で血栓が小さく流速が早い場合も偽陰性が起こりやすいと報告されていますが、流速が速くて造影されない場合、上記の手法で造影効果を大きくすれば改善できることになります。またこの報告は64列CTですので数心拍の合成で連続断面とはいえないため偽陰性が起こりえます。
256列以上の腹臥位遅延相CTであればより改善できると考えます。
TEEはgold standardとされていますが、偽陽性があることを考慮すべきと思います。
★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
TEEはリアルタイムの画像ですが、同じ観察時刻の連続断面が得られません。そのために術者の観察力に依存し主観的な診断で偽陰性が起こりえます。またビデオを撮影した場合、再生に時間がかかり第三者の診断に負担がかかります。ポイントの写真を提示するのみでは血栓を見逃す可能性がでてきます。エコー画像には減衰があり不鮮明になります。アーチファクトか血栓かの鑑別が確信をもって診断できず、手術の安全のために血栓疑いと診断してしまう場合があるのではないでしょうか。この場合に偽陽性が起こる可能性があります。腹臥位遅延相CTならばこの状況をはっきり診断することができます。
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[内視鏡付き経食道心エコー]
学会の先生方、TEE専門のリーダーの先生方にお願い申し上げます。
内視鏡付き経食道心エコーの開発の働きかけに動いていただけないでしょうか。
安全になるだけではなく、69人に1人の禁忌であった食道憩室のかたにTEEが施行できるようになり、心臓の治療にもつながります。
経食道心エコーは日本で名古屋三菱病院内科の久永光造先生、山口大学第二内科の松﨑益德先生により開発と臨床応用がなされました。日本が誇る、世界に貢献する技術のひとつです。経食道心エコーが改良されれば、世界中の人々の更なる福音となります。
どうぞよろしくお願いいたします。
麻酔科Dr、循環器科Dr,心臓血管外科Drの方々へ
1)説明と同意の確認
これまで述べてきた経食道心エコーの事故をなくすためには、どうしたらよいでしょうか。現状の経食道心エコー(TEE)では同意書をいただくときに「食道に憩室がある方、胸部・頸部に放射線治療を受けた方、食道静脈瘤がある方、食道の腫瘍がある方、食道裂孔ヘルニアの稀なタイプ(傍食道型)がある方は、偶発症が起きる可能性がありますので、申し出て下さい。」と尋ねることになっています。日本心エコー図学会の下記のTEEのガイドラインと同意書を再掲します。
http://www.jse.gr.jp/contents/guideline/data/TEE_guidelin...
また日本循環器学会の循環器超音波検査の適応と判読ガイドラインのp18の右半分には25行に渡って禁忌と経食道心エコーの施行前に必要な検査についても書かれています。
その部分を引用します。
右室や左室心尖部は経胸壁心エコー法のほうが観察に適していることが多く,術中やカテーテル治療中など経胸壁アプローチが困難な状況を除いて経食道心エコー法は推奨されない.一般的に,治療や時間経過に伴う所見の変化が予想されない状況での再検査,および臨床所見から感染性心内膜炎の可能性が低いと判断される患者などは,経食道心エコー法の適応とはなりにくい.経食道心エコー法を 行うべきではない疾患や病態としては,食道狭窄,食道静脈瘤(red color sign[RC] 1以上),食道憩室,胃・食道術後,食道癌,胃・食道の出血・潰瘍・腫瘍,頚部・縦隔放射線治療の既往が挙げられる.また,頚椎損傷など頚部の可動性に問題がある疾患も含まれる.滑脱型食道裂孔ヘル ニアでは,プローブの位置に注意すれば安全に検査を施行できる.肝硬変では,上部消化管内視鏡検査で食道静脈瘤の有無を事前に確認するほうがよい.検査への理解・同意が得られない,または協力が得られない症例には施行すべきではない.これらの禁忌に関連する既往歴について, 検査前に問診して危険回避に努める必要がある.検査施行前に,出血傾向,血小板や凝固機能の異常の有無を確認することも必要である.不安定狭心症や急性心筋伷塞の発症3日以内,血圧がコントロールされていない急性大動脈解離や腹部大動脈瘤,脳出血・脳伷塞急性期,破裂リスクの高い脳動脈瘤においては適応判断や検査施行に慎重さが求められる.局所麻酔薬や鎮静薬に対する過敏症の既往も検査を施行できない理由となる.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Ohte.pdf
2)患者の理解度の問題
しかし経食道心エコーを受ける方は高齢の方が多く記憶があいまいな可能性があります。また最近注目されるようになりましたが、IQ71以上85未満の境界知能のかたが日本で14%1700万人いるといわれており、問診にうまく答えられない方もあると考えられます。
また胃透視や胃内視鏡を受けたことのないかたもあるはずです。住民検診の胃透視は胃がんがなければ異常がないものと考えられ、食道憩室は本人に見過ごされる危険性があります。
3)食道憩室の頻度の多さ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi1964/73/7/73_7_850/_pdf
1976年杉田らの上部消化管憩室についての報告では、健常者に食道憩室が1.44%みられたと報告されています。69人に1人食道憩室があるということになります。
4)合併症の報告の漏れ
前項で述べたように2010年1月から2023年6月までの検索で咽頭または食道の穿孔が11例ありそのうち4例が死亡されています。ある大病院の医師の話では、これまでの病院では手術の合併症は院内のインシデント(医療事故の手前の事件)にすら報告されてこなかったことがあるとお聞きしています。外部への報告でTEEの穿孔が年に1例ほどであったことは、年に数万例以上TEEが施行されていることから考えると、同意書をもらっている合併症については院外へ報告されている事例がすべてではなく、氷山の一角であると考えられます。私のTEEによる咽頭穿孔の患者さんも日本医療機能評価機構の検索では見つからず、外部への届けはなかったと思われます。この文章を読んでくださっている先生方もTEEの事故を見聞きされているほど頻度の多いことではないでしょうか。
5)消化器内科への問い合わせの姿勢
これだけ禁忌である疾患の頻度が高い中で問診のみで経食道心エコーを施行してよいものでしょうか。患者さんは医師にまかせる気持ちで同意書にサインをされますが、医療側にとっては免責の文章のみであり合併症を起こしても訴えられないという意味であって、事故を減らそうという医療側の姿勢が伝わらないのではないでしょうか。患者さんにできるかぎり安全に経食道心エコーを施行するためには、直前のできれば1~2年以内の胃内視鏡の所見用紙の確認が必要ではないかと考えられます。
眼科の医師が白内障の手術前に内科の主治医に問い合わせの紹介状を書かれますが、同じようにTEEの施行前に消化器内科に胃内視鏡の所見を問い合わせることが患者さんを事故から守るために必要と思います。
6)食道造影の有用性
TEE直前に食道造影を施行して食道憩室を診断し事故を防いでいる施設もあるとお聞きしています。空腹にすることも必要なく手軽な検査です。
7)内視鏡付き経食道心エコーの必要性
しかし禁忌とされてきた食道憩室や食道静脈瘤の症例での経食道心エコーが可能になる方法があります。消化器内科への問い合わせも不要になる方法です。
それはすでに多くの方々が要望を伝えたり製造を検討されたとは思いますが、直視できる内視鏡を経食道心エコーに付属させることです。視野が狭くても直接進む先が見えれば咽頭や食道憩室での穿孔は避けることができると思います。食道損傷も胃内視鏡と思えば防ぐことができます。胃内視鏡よりも生検がない分リスクが少なくなります。胃内視鏡でわざわざ侵襲的検査といわれていないように思います。(ただし胃内視鏡は侵襲的検査に分類されています。)
胃内視鏡程度の安全性になれば安心です。内視鏡付き経食道心エコープローブが開発されることを多くの先生方が待ち望んでおられるのではないでしょうか。
2024年2月9日私は思い切ってエコーメーカーにこの希望の手紙を発送しました。しかし私が経食道心エコーに出会ってから30年近く経過しており、その間に多くのDrからも内視鏡をつけてほしいという希望がメーカーに多数寄せられていたに違いありません。経食道心エコーは自動車の運転に例えると、前を見ずにカーナビだけを見つめて現在の道路の状況を確認せずに運転することに似ていると思います。自動車メーカーがさまざまな安全装置を開発しているのと同様に、エコーメーカーも経食道心エコーを安全にする装置の開発が望まれます。安全な製品はメーカーの責務のはずです。
どうして何十年も経食道心エコーに内視鏡がつかなかったのでしょうか。膵臓を調べるための超音波内視鏡はエコー会社と内視鏡会社の協力のもとですでに実用化されています。
細い内視鏡が存在する現在、内視鏡付き経食道心エコーは技術的には可能になっていると想像されます。内視鏡付き経食道心エコーがこれまで開発されなかったのは、内視鏡とエコーを両方製造できる会社がなかったためかと思いましたが、それだけではないような気がします。
[内視鏡付き経食道心エコーの開発の要望の声を富士フイルムに!]
最近日立アロカメディカルを統合した日立製作所が2020年にフジフイルムグループの富士フイルムヘルスケアに承継されました。2024年7月から富士フイルム株式会社に再編されています。富士フイルムには内視鏡の製造部門もあります。一つのグループ企業で内視鏡と経食道心エコーを生産している待ちに待った状況です。富士フイルムであれば最短で内視鏡付き経食道心エコーの開発が可能と思われます。しかし技術的には可能でも採算がとれないと開発されません。メーカーを動かすことは小さな声では困難であり、社会からの大きな声の要望が必要です。
そこで全国のDrからできるだけ多くの開発の要望の声を富士フイルムに伝えていただき、これだけの多くののニーズがあることを示していただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。
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[TEE横断面客観的診断法の提案]
腎機能の悪い方や造影剤アレルギーのある方にはTEEでしか左房内血栓の判定はできません。動画では術者の技量の問題で見落としが起こる可能性があり、第三者の録画の確認は時間がかかるため容易ではありません。またプローブを食道で曲げることは危険です。そこでCTと同じように1mmピッチの左心房の横断面の撮影をして、その静止画をCTと同じように第三者に診断してもらえば客観的な診断になります。気になった病変を見るために動画も残しておけば安心です。
1mmずつエコープローブを動かす道具について、M16のネジのピッチが並目2mmなのでハンドルをつけて半周で1mmになります。https://tomitarashi.com/pitchtablescrew1.html
ボルトとナットと合板を組み合わせてナットと合板の接続を工夫し、ハンドルをつければ完成です。日曜大工で作られてはいかがでしょうか。
またはシリンジポンプを利用し、シリンジの押し子に小さな発砲スチロールの台を載せマジックテープでプローブを接続するという案を考えました。
横断面の第三者の診断と術者の通常の診断を比較して違いがなければ、まっすぐにしたプローブを抜いて診断するだけになるので安全で客観的評価になると思います。腹臥位CTとの診断の比較もしていただくとよいと思います。
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3. 2021年改訂版循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン(日循ガイドライン)
日本循環器学会ガイドライン:2021年改訂版循環器超音波検査の適応と判読ガイドラインに「心房細動カテーテルアブレーション治療の術前検査 としての TEE の推奨とエビデンスレベル」の記載があります。(P20-21)。
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Ohte.pdf
「心房細動に対するアブレーション治療時に、左心耳内血栓の存在が心臓造影CTで否定できない場合に,TEE を行う.」が推奨クラスⅠ です。この文はCTで否定できる場合にはTEEは不要ということになり、陰性的中率が高いという扱いであることがわかります。TEEをゴールドスタンダードにしているので限界があるようです。
このガイドラインには中西先生の遅延相の撮影が必須のように書かれていますが、残念ながら腹臥位での記載はありませんでした。まだその有用性が広くは報告がなされていないのでしょう。
今回、2年前に持続性心房細動でアブレーションを受けたかたに聞いたところ、造影CTを仰臥位で受け、TEEも受けたといわれていました。
心房細動のアブレーションが多くなされている現在、私たち愛知県立尾張病院OBが腹臥位CTを広めていれば、もっと侵襲的なTEEを減らすことができたのではないか、防ぐことができる事故があったのではないか、これまでもっと声を上げるべきであったと思いました。そして一刻も早く心房細動アブレーションを施行している病院の循環器科Dr、心臓外科Dr、放射線科Dr、診療放射線技師の方々に腹臥位心臓CTを知っていただく必要があると、20年近く経過して初めて感じています。
このガイドラインによりTEEを施行した場合、陰性と診断したときに恐ろしいTEEの偽陰性や見落としの可能性があることに気づきました。「TEE偽陰性の重大性」で述べますが、このガイドラインによりCT陽性、TEE陰性でアブレーションをすることにつながらないかという心配があります。ガイドラインにはアブレーションをするようには書かれていないと思います。
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4.心房細動症例における心臓CT遅延造影撮影の有用性(とくに低い被ばくモードでの遅延造影撮影)
国際医療福祉大学市川病院の船橋伸禎先生は心臓CT遅延造影撮影で、心房内血栓の検出、左心耳の形態評価、左房壁肥厚、左房壁の遅延造影について総説を書かれています。心臓Vol53No.11P1148-1152
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/53/11/53_1146/_pdf
心臓CTを評価するうえで必要な情報と考えられるので、ご紹介させていただきます。
今回このホームページの掲載で、船橋先生に下記のアドバイスをいただきました。
「(血栓を描出する遅延相では)なるべくそのCTで放射線被ばくが少ないモード(Prospective ECG gating、管電圧を低くする)が良い」「スペクトラルCTでは低エネルギー表示にする」
近年、仰臥位の遅延造影で左房内血栓の良好な診断能が報告されていますが、これらは船橋先生のいわれるように被ばくが少ないモードによる撮影と考えられます。仰臥位遅延像で診断する場合にはこの撮影方法になっていることが重要だと思われます。
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Ohte.pdf
日本循環器学会ガイドライン:2021年改訂版循環器超音波検査の適応と判読ガイドラインp20にCQ:心臓造影CTにて左心耳内血栓の存在が否定的な場合に、TEEを施行しなくてよいのかという記載があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32920662/
2021年イタリアのAmioらの報告です。左房内血栓の10文献のメタアナリシスの論文が紹介されています。
さらにガイドラインには遅延像の撮像追加により感度、特異度、陽性、陰性的中率がすべて100%になったという文献が下記の3つ紹介されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22364703/
2012年のアメリカのSawitらの報告です。1分後遅延像の撮像でIsovue300の造影剤は60-80ml4ml/秒の注入です。遅延像の被ばく量は1.25±0.5mSvです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26420491/
2016年イギリスのLazouraらの報告です。60秒後遅延像の撮像でUltravist370の造影剤は90ml 6ml/秒の注入です。遅延像の被ばく量は0.4(0.2-0.6)mSvです。造影剤はかなりの量とスピードです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26341605/
2016年アメリカのBilchickらの報告です。40秒後遅延像の撮像で濃度不明の造影剤は60ml 速度不明の注入です。遅延像のみか不明ですが、被ばく量は3.6mSvです。
またガイドラインにはTEEの偽陰性の次の文献の紹介もあり、両モダリティの比較のみではCTの真の診断性能を明らかにすることはできないと述べられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8249844/
1993年台湾のHwangらの報告です。症例は213人のリウマチ性僧帽弁疾患の患者でTEEと心臓の手術が3日以内に施行されました。28人にTEEで左房内血栓があると診断され特異度は100%でした。しかし手術で血栓がある二人がTEEで診断できませんでした。経胸壁心エコーでは16人しか左房内血栓は診断できませんでした。TEEの左房内血栓の感度93.3%特異度100%陽性的中率100%陰性的中率は98.9%でした。経胸壁心エコーに比べてTEEの診断能が飛躍的に改善されたことが示されています。
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[TEE偽陰性の重大性]
ここで重大な事実に気づきましたので書かせていただきます。確かに胸壁心エコーに比べてTEEはかなり左房内血栓の診断能はよいですが、TEEでは偽陰性がTEE陰性の中の1.1%存在することになります。わずかな数ですがTEEだけで診断すると年間数百人アブレーションをしている施設では数人左房内血栓が見落とされる可能性があります。また術者の技量の問題もあり、血栓を見落とす場合もありえます。アブレーションをするためには感度が100%か陰性的中率が100%でないと事故につながります。わずか1%が事故の防止のためには重要です。CTで陽性が疑われる症例にTEEを施行して陽性ならばアブレーションはされません。しかしCTで陽性が疑われTEEで陰性と診断されたらアブレーションはされるのでしょうか。CTで左房内血栓が疑われる症例なので立場を変えてTEEを受けた人で考えると、偽陰性は分母が少なくなり1.1%よりかなり高いことになります。脳梗塞を起こせば後悔しきれません。そこまでのリスクを冒してまでアブレーションは必要でしょうか。アブレーションをしないのであればCTのみで判断でき追加のTEEは不要ということになってしまいます。ガイドラインがCTで左房内血栓が否定できないときTEEを推奨しているということは、CTで左房内血栓が否定できずTEEで陰性と診断した場合にアブレーションをするということにつながらないでしょうか。アブレーションに携わっておられる先生方にいつかお尋ねしたいと思います。
造影CTで左房内血栓が否定できずTEEで血栓がないと診断され(実は鑑定ではTEEで血栓ありとされた)、アブレーション後に脳梗塞になった事例がネットで検索されました。事故が起これば重大です。TEEには左房内血栓の偽陰性の報告もあるので、このような場合にはアブレーションをせず抗凝固療法を継続し再CTで判定する選択を優先するべきではないかと思われます。実際には左房内血栓はなくアブレーションのときに急に血栓ができる場合も考えられます。しかしCTで疑われた画像がある以上、もともと血栓があったのではないかという疑念が生じます。
現在ではCTの血栓疑いは否定すると事故につながる可能性があります。CTの早期相のみの診断のときであれば偽陽性が多いのでTEEによりCTを否定できましたが、仰臥位遅延相や腹臥位遅延相では偽陽性が少ないか偽陽性がないのでCTを否定すると危険です。
TEEを施行した場合、陰性でアブレーションをしないことにしてもガイドラインに反することになりません。今後の動向を注目したいと思います。現実的にはCTで否定できずTEEで陰性と診断した場合、その診断医の責任は重大で訴訟の可能性を背負った診断になり、また患者にとってもリスクの高い選択になります。その場合アブレーションはされないのではないかと想像しますがいかがでしょうか。
仰臥位遅延相CTや腹臥位遅延相CTで陰性と診断しアブレーションを施行した場合、血栓がCTで偽陰性の場合に事故として報告されるはずですがどうでしょうか。現状はCTでは偽陰性はない扱いになっていると思われます。腹臥位遅延相心臓CTならば現状偽陰性はなく、左心耳に十分な造影剤を入れて遅延相に偽陽性もなく、ガイドラインにしたがってTEEを施行した症例はほぼすべて左房内血栓があり、TEEで陰性の症例は偽陰性ではないかと考えます。
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10096484/
ここで日循ガイドライン以外の報告を記載します。1999年トルコのV kocaらの報告です。262人のTEEと開胸手術を受けたかたの診断能です。TEEで血栓を発見できなかったのは1例のみでした。感度97%、特異度100%、陽性的中率100%、陰性的中率99.6%、正診率99.6%でTEEの良好な左房内血栓の診断能を報告しています。わずかですが感度100%ではなくすべての左房内血栓を診断できたわけではありません。アブレーションには感度と陰性的中率がともに100%でないと数百人にひとり重大な事故が起こりうることになります。心房細動がすぐに命にかかわる病気でない以上、左房内血栓の見逃しは絶対に避けなければなりません。
次に2回造影して1回撮影した報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27601228/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5247541/
2017年オランダのTeunissenらの報告です。Ultravist300造影剤を速度6ml/秒30ml注入して25秒後さらに同じ速度で70ml注入し1回撮像し診断されました。被ばく量は3.1(1.9-3.2)mSvでした。605人のうち26人(4.3%)に造影欠損がありそのうち二人がTEEで血栓陽性でした。早期相のみの報告よりかなり減少はしています。1回目の造影剤の割合が多ければもっと改善したのではないかと思われますがどうでしょうか。
最近の日本の報告では次の文献がネットで検索できました。2019年日本大学大学院黒沼圭一郎先生の論文です。
repository.nihon-u.ac.jp/xmlui/bitstream/handle/11263/1519/Kuronuma-Keichiro-5.pdf?sequence=3&isAllowed=y
320列のCTで60秒後遅延像の撮像で造影剤の量と速度は不明です。遅延像の被ばく量は0.42mSvです。遅延像の撮像追加により感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率が100%、99%、83% 100%です。
上記のように仰臥位の遅延造影で良好な診断能が報告されています。ガイドラインでは「遅延像を含む適切な プロトコルによって撮像された造影CTにおいて,左心 耳内血栓陰性と判定されればTEEは推奨されないと考 える.」と記載されています。つまり、適切な プロトコルとは造影剤の量やスピード、管電圧、撮影のタイミングを適切にする必要があるということです。私の感想ですが、わざわざセカンドパスで撮影するのではなく3-4巡目以降で撮影したほうが左房で攪拌されて偽陽性が減るはずです。ただし造影剤の集団の波の高い時相に合う必要があります。遅いほうが波が拡がって合致させることができると思います。
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5. 心臓造影CTでの「腹臥位」の有用性の報告
我々の報告は2003年でしたが、それ以降私が検索した限りでは、研究報告は2019年より、症例報告は2011年よりなされています。研究報告は我々を含めて6報告、症例報告と演題は9報告です。(2023.7.3現在)新たな報告を見つけた場合、ここへ書き加えています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30801566/
2019年の報告です。トルコのMecit Kantarciらは、53人の患者は腹臥位のMDCTとTEEを施行し、TEEと比較して腹臥位のMDCTの感度、特異度、陽性的中率、および陰性的中率を計算しました。 造影剤は70ml生食60mlを5ml/秒で注入しました。腹臥位でのMDCTスキャンの場合、感度、特異度、陽性的中率、および陰性的中率の結果は、それぞれ100%、100%、100%、および100%でした。同等の結果であれば、腹臥位MDCTだけでよくTEEは必要なくなるのではないかと思われます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30251193/
2019年、京都三菱病院Kawajiらの報告です。心房細動カテーテルアブレーションのための撮影方法で記載します。
https://www.jca.org.br/jca/article/view/3392/3402
2020年の報告です。アルゼンチンのLuis Arabiaらは34人の患者に仰臥位で80-150mlの造影剤を注入しファーストパスを撮影。3分後に40mlの造影剤の追加で仰臥位と腹臥位で撮影しました。早期相でみられた造影欠損は仰臥位遅延相と腹臥位遅延相で消失し、感度、特異度、陰性的中率が100%であることを示しました。(症例に左房内血栓がないと思われるので感度100%と書いてあるのは疑問です。)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33969567/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8359968/
2021年の報告です。横浜市立みなと赤十字病院のRena Nakamuraらは300例の持続性心房細動患者に腹臥位での早期遅延造影CTを施行し、遅延相(30秒後)に血栓のない症例でアブレーションの際、左心房からの心腔内心エコー検査(ICE)を実行して、血栓の欠如と左心房付属器(LAA)の血流速度の推定をしました。
CTはカテーテルアブレーションの前の3週間以内に実行されました。早期および遅延心臓CTは、128セクションヘリカルCTスキャナー(Somatom
Definition AS、Siemens Healthcare GmbH)を使用して腹臥位で実施されました。造影剤(Iopamiro®、370mgのヨウ素/ml、Bracco
Imaging)を、25.9 mg /kg体重/秒の用量で12〜14秒間静脈内注射しました。上行大動脈の関心領域が160ハウンズフィールド単位に達した5秒後に、早期腹臥位CT(early-pCT)が開始されました。腹臥位遅延相CTは30秒後に開始されました。
300例のうち40例が早期に造影欠損があり、そのうち34例が遅延相で欠損が消失したとのことです。つまり偽陽性が早期相にあったとのことで、腹臥位遅延相のCTが有用であると報告しています。
我々の報告のときには腹臥位で4例とも早期も遅延も陽性でした。おそらく我々に偽陽性がなかったのは、早期相での撮影のタイミングの違い、症例数が少ないことと、造影剤の投与量がRena
Nakamuraらと比べて1.5倍くらい多かったことが影響するかもしれないと思いました。また遅延相で造影剤が濃く左心耳に貯まっているのを報告されましたが、それは我々の少ない症例にはないことでした。遅延相のタイミングが我々は5分後、Rena
Nakamuraらは30秒後と異なっていたためと思われました。
我々のときには、EBTのため1枚ずつ移動しながら40枚撮影していました。造影剤を1-1.5ml/秒で60秒間くらい注入。注入開始して40秒後くらいから30秒間くらい撮影していましたので、Rena
Nakamuraらの遅延相より我々の早期相は後の時間にまで撮影していることになります。早期相は量が多いほど、撮影が注入開始からある程度遅いほど攪拌されて正しく描出できることが理解できます。現在のMDCTでは、早期相で左心耳を描出するのは、冠動脈CT方式では時間が早すぎて困難だと思いました。また遅延相も造影剤の総量から考えると、我々のときの5分では希釈されて遅すぎると考えられます。
撮影の開始時間や造影剤の注入量が、論文のサマリーだけでは表示されてないため、様々な報告を読むには実際の論文で確認しないと比較できないことに気がつきました。
https://redcross.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=19126&item_no=1&page_id=13&block_id=17
2022年浜松赤十字病院の抄録です。腹臥位造影CTにおける左心耳血栓と食道位置の評価
【目的】造影CT時の体位による造影所見の相違と左心耳の心腔内エコー所見、および CTと3Dマッピングシステム(CARTO)上での食道偏位の相違を評価。CTは術 前1週間前後に撮影し、食道の偏位は左肺静脈下縁と同じ高さの食道中央との距離を CTおよびCARTO上のgeometryで計測。 【結果】アブレーション術前に経食道エコーを行わず造影CTの みで評価した73例。CT撮影の体位は仰臥位が37例、腹臥位が36例。ICEによ る左心耳の評価が行えた66例(仰臥位:33例、腹臥位:33例)では、sludge2例(仰臥位群、腹臥位群ともに1例ずつ)が血栓を認めた症例はなかった。左心耳の 早期像濃染の遅延は仰臥位群で有意に多かった(仰臥位群:10例(27.0%)、腹臥位群: 2例(5.5%)、p=0.013)。遅延像での造影剤貯留は仰臥位群では認めなかったが、腹臥 位群では2例確認された(p=0.146)。食道の偏位は評価できた67例(仰臥位:32例、腹 臥位:35例)において仰臥位群で5.8±3.4mm、腹臥位群で6.1±5.3mm(p=0.810)。
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[腹臥位の症例報告と演題]
左房内血栓の描出に腹臥位の心臓CTが有用であるという症例報告がありますので以下に列挙します。
2011年新潟大学病院小澤らの新潟循環器談話会の抄録
https://niigata-u.repo.nii.ac.jp/records/9912#.Y0jminZBzcs
2014年京都大学病院岡林らの地方会の演題
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201502256994792630
2018年アメリカのCrimmらの症例報告の論文の一部
https://www.journalofcardiovascularct.com/article/S1934-5925(18)30017-0/fulltext#relatedArticles
2018年福井大学病院Hasegawaらの症例報告の論文
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jce.13411
2020年東京都立多摩総合医療センター藤井らの症例報告の論文 仰臥位遅延相CTの血栓疑いかつTEEの血栓疑いが腹臥位遅延相CTで陰性とされ、左心耳切除術で血栓は認められませんでした。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscva/24/1/24_2019-3-021/_pdf
2021年しゅうたの撮影記 ブログ
http://radimagnet.blog.jp/archives/8856109.html
2021年浦添総合病院千葉らの特別企画のホームページの記事
https://www.ebm-library.jp/circ/special/index.html
2021年三井記念病院放射線検査部細田先生の映像情報Medicalの記事(登録必要) TEEの血栓疑いかつ仰臥位遅延相CTの血栓疑いが、腹臥位遅延相CTで陰性になり、経皮的左心耳閉鎖術の施行が可能になったとされています。
https://www.eizojoho.co.jp/imagetec/10322
2022年 演題のみ カテーテルアブレーション委員会公開研究会2022 採択演題一覧(登録番号順)心房細動術前の左心耳内血栓評価における腹臥位造影CTの有用性と左心耳造影効果
の意義 https://new.jhrs.or.jp/contents_web/cathe-ab2022/pdf/saitaku_v3.pdf
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6.造影の目的による撮影方法の考察
循環時間は正常が25秒以下とされています。心不全のかたはそれより延長しています。冠動脈CTの撮影法は、現状はファーストパスのみでされていることになります。10数秒の造影時間のみでは、心房細動患者の左房全体が染まりにくいものと思われます。10数秒の造影剤の波が全身を周り、セカンドパス、または整数倍のパスがさしかかったときに遅延相を撮影する必要があります。このタイミングで撮影するには、慎重な時間の検討を要すると思われます。
我々はおよそ1分間ぐらい造影剤を注入していました。その時点ではセカンドパスの造影剤も含まれていたと思われます。結果として造影剤の総量が70-90ml注入していました。この方法だと遅延相はいつ撮影しても造影剤の波に遭遇することになります。
私はRena Nakamuraらの早期相の陽性的中率が6/40=15%と低く、我々の結果と違うことについて、我々の結果が誤りでなかったかと心配になりました。我々の早期相はファーストパスとセカンドパスの造影で、Rena
Nakamuraらはファーストパスのみの造影ということになり、陽性的中率の違いが理解できました。
Mecit Kantarciらはファーストパスで偽陽性がないという報告です。5ml/秒という速い速度と造影剤70mlが影響しているのかもしれないと思われました。また撮影開始時間の記載がありませんが、遅ければ遅いほど偽陽性がなくなると思われます。
心房細動のかたの循環時間が30秒と仮定します。すると我々の遅延相は9番目と10番目数回目のパス(平衡相)で撮影したことになります。Rena Nakamuraらの遅延相はセカンドパスのみの造影ということになります。
セカンドパスを含んでいることから考えて、我々の早期相とRena Nakamuraらの遅延相は、同じセカンドパスを写していることになり、同等の結果であるはずと予想されます。
仰臥位では4分かかって偽陽性がなくならなかったところを、腹臥位ではわずか30秒で陽性的中率が15%から100%に改善させたことは、腹臥位の効果が大きいことを意味すると思います。
ここでふたつの撮影方法が考えられます。ひとつは心臓全体を均一に造影して左房内血栓をきれいに撮影するために、我々のときのようにセカンドパスにまで重なるように造影剤を長く注入して、安心して早期相と遅延相を撮影する方法。以前は造影剤が増えることが欠点でしたが、今はMDCTのため撮影時間が短いのでEBTの時より造影剤を減らせます。どちらも腹臥位では偽陽性がありません。注入速度が遅く冠動脈CTを諦めた撮影方法です。
もうひとつは心房細動でも冠動脈CTの撮影ができる高性能CTに限定されますが、通常の冠動脈CTを撮影して遅延相で左房全体を染める方法。早期相では十分左心耳は染まらず、遅延相では整数倍のパスに合うかどうか心配ですが、冠動脈の情報が得られます。通常の冠動脈CTと異なり、50-75mlの造影剤が必要と思われます。腎機能、冠動脈情報のニーズに合わせて考えられるのではないかと思いました。1分後に遅延相を撮影されることが多いですが、仰臥位ではもっと遅いほうが偽陽性をなくせます。腹臥位ならば1分後で偽陽性はありません。1分後では造影の濃いところと薄いところのムラができます。2-3分以後になれば心臓全体が均一な染まりになるのではないかと想像します。我々は5分後でした。
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7.心房細動カテーテルアブレーションのための撮影方法
アブレーションのマッピング用左心房3D画像の問題があります。腹臥位の3Dでは仰臥位のアブレーション時と位置や形が変わる可能性があります。そこで早期相を仰臥位で撮影し冠動脈CTと左心房3D画像を作成、左側臥位からから腹臥位になり、遅延相を左房内血栓描出用に撮影すれば、問題は解決されることになります。
ここまで書いてどこかで聞いた報告のような気がして以下の2019年報告の三菱京都病院のKawaji Tらの論文を入手しました。理想的な撮影方法で、驚異的な診断能を示していますので紹介させていただきます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30251193/
対象はアブレーション予定の420人。
被ばくを減らすため早期相を撮影したらすぐに解析して次に撮影するか判断をします。
1)仰臥位で左心耳がきれいに染まった場合はこれで終了。
2)仰臥位で左心耳が薄く造影されたら、そのまま仰臥位で遅延相を撮影する。
3)仰臥位で左心耳が造影されない場合、腹臥位になって遅延相を撮影する。
このようなプロトコールで施行されていました。
造影方法について誤訳を防ぐため原文から引用します。後半のnovel protocolです。
LA-CT scanning were perforrmed using single-source CT scanners with 320-slice
detector rows (Aquilion ONE: Toshiba Medical systems,Tokyo,Japan).
In the conventional protocol, iodine contrast media (Iopromide 370/50ml) was
injected at fractional dose 24.5 mgl/kg/s (between 3.0 and 5.0 ml/s) during
12 s
with additional normal saline administration after contrast injection at
same rate as
contrast injection,
while in the novel protocol, iodine contrast media (Iopromide300/100ml)
was
injected at fractional dose 18 mg I/kg/s (between 3.0 and 5.0 ml/s ) during
22 s
with additional normal saline administration after contrast injection at
the rate of
contrast injection plus 1 ml/s.
After contrast injection, bolus tracking technique with scan initiation
when the CT
number of LA reached 350HU, was used to optimize the timing of image
acquisition.
遅延相の撮影タイミングは、図から読み取ると早期相撮影後1-2分後のようです。本文から確認できませんでした。ぜひ原文を入手して確認していただきたいと思います。
結果は420人のうちなんと419人が左心房が造影欠損なく描出されました。さらにTEEで4例血栓を指摘されていましたが、CTで否定されました。
比較として、それまでの474人のプロトコールは早期相のみで、造影欠損なしが339人71.5%、うすく造影された場合が82人17.3%、完全な造影欠損53人11.2%でした。そのなかで9人TEEで血栓が陽性でした。
アブレーション目的の場合、内服治療により左房内血栓の有病率は低いので、陽性的中率ではなく偽陽性率で考えたほうがよいと思われます。Kawajiらの新しいプロトコールは驚くべき結果を示したと思います。
遅延相を撮影するためには、注入時間が長いほうが整数倍のパスに遭遇しやすくなります。12秒から22秒に延長して注入されているので、これにより造影剤の波にいつでも遭遇できることになったのだと思いました。
「リアルタイム監視によるこの新しいアプローチは、LAA-FDの検出におけるLA-CTの診断精度を改善し、LAA血栓を除外する上でTEEに対するLA-CTの潜在的な優位性を示唆している。」とKawaji
TらはAbstractで述べています。
この「」の文章がGoogle Chromeの日本語自動翻訳で出なくて、英文を読んで知って自動翻訳ミスとその内容に驚きました。gold standardのTEEを上回る診断能である可能性を指摘されています。TEEで左房内血栓ありと疑われた1症例が腹臥位遅延相CTで陰性と診断され、左心耳切除術とメイズ手術を受け血栓は認められなかったと報告されています。
アブレーションの施設ではKawaji Tらのプロトコールを修正して、左房内血栓のリスクの高い場合にあらかじめ遅延相を腹臥位で撮影するようなプロトコールを採用していただくことが、被ばく防止の点でも、左房内血栓の偽陽性率の低下のためにも、診断医の労力削減のためにも、望ましいのではないかと思います。腹臥位遅延相を低い被ばくモードで撮影した情報は私にはありません。それで良好に診断できればより被ばくを減らすことができるようになります。
ひとつKawaji Tらの報告の疑問点として、この造影剤の注入条件で冠動脈CTができているかという点があります。まだ心房細動の冠動脈CTが不可能な時期だったかもしれません。この論文に記載はないと思います。
心房細動の冠動脈CTが撮影できる高機能CTのある施設では、これまでのように造影剤を増量し注入時間を延長して冠動脈CTの撮影をおこない、腹臥位で遅延相を撮影する場合には、いつ撮影するかが課題に残ります。遅いほど造影剤の波が分散されて濃度が均一化すると思われます。Rena Nakamuraらの報告を考えると、腹臥位にした瞬間から造影がはじまったとして左心耳の描出には1分は必要です。10数秒の波が何分後にうまく分散して遅延相が撮影できるかどうか、これまでの仰臥位での遅延相を撮影されてきた経験を踏まえて、ぜひ診断能の報告をしていただきたいと思います。
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8.画像処理について
撮影した画像を観察するためには、適切なウインドウ幅とウインドウレベルの設定が必要です。とくに遅延相では造影剤が希釈されているので、そのウインドウレベルに合わせてウインドウ幅も縮小して造影効果がわかる写真にする必要があります。
最近拝見した左心耳血栓疑いの心臓CT遅延相の画像は、ウインドウ幅が800で染まっているかわからない写真でした。20年前の記憶ですが、私はウインドウ幅を早期相で300、遅延相で250にしていたと思います。造影剤の多い時代のデータです。
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9.CTによる左房内血栓の描出のまとめ
少ない報告の現状のまとめです。
[仰臥位の場合]
1)ファーストパスのみの撮影:偽陽性が多い。
2)ファーストパス+セカンドパスの撮影(60秒までの持続注入):偽陽性がある。
3)セカンドパスの撮影(1分):偽陽性がある報告とない報告がある。大量急速注入および低い被ばくモードで偽陽性がない。冠動脈CTの遅延相では偽陰性がある。
4)遅延相5分の撮影:注入速度が遅い場合、偽陽性は少ないが存在する。
[腹臥位の場合]
1)ファーストパスのみの撮影:偽陽性が多い報告と大量急速注入で偽陽性がない報告あり。
2)ファーストパス+セカンドパス(60秒までの持続注入)の撮影:偽陽性はない。
3)セカンドパス(1分)のみの撮影:偽陽性はない
4)仰臥位30秒腹臥位1から2分の遅延相の撮影:偽陽性はない。
5)遅延相5分の撮影:注入速度が遅い場合、偽陽性はない。
[左房内血栓の偽陽性の理由]
左房内血栓の偽陽性が、造影剤が血液より重いこと、左心耳が肺静脈開口部より胸壁側にあること、心房細動では左心房の攪拌の悪いこと、左心耳のくびれで血流が停滞することなどから起こると、以前に考察しました。
実際に左心耳の血流低下について2019年山下循環器科内科の大屋らの報告などがなされています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/39/3/39_195/_pdf/-char/ja
今回腹臥位のファーストパスの偽陽性の追加の考察として、造影剤が少ないこと(総量、注入速度、撮影タイミング)から起こると仮定すると、上記のまとめの説明ができると思います。
また船橋先生の勧められるように低い管電圧の撮影で左房内血栓の偽陽性を防ぐことができるので、腹臥位の報告の比較においてもその関与が考えられるかもしれません。
[仰臥位CTと比較した腹臥位CTの長所と短所]
最近の冠動脈CT方式の造影だと仰臥位1分の遅延相の造影では正診率100%の報告があります。しかしそのためには造影剤の量、スピード、撮影の管電圧を適切に設定することが必要です。つまり仰臥位では造影剤が重力のため左心耳にはいりにくいところを条件を工夫して描出しているということです。
具体的には仰臥位では
1.遅延相で時間をかけて左心耳が染まるのを待つ。
2.造影剤の量と注入速度を増やして造影剤を濃くして左心耳に入る造影剤の量を増やす。
3.低い被ばくモードで撮影してわずかに造影された左心耳を映し出す。
以上の工夫で左房内血栓が写されています。
ところで胃透視は写したいところにバリウムを載せるために台を立てたり寝かしたり、被検者に仰臥位腹臥位右側臥位左側臥位になってもらいます。造影CTも同様に腹臥位になるだけで容易に左心耳に造影剤を入れ、通常の画像を得ることができます。
一般の造影CTではファーストパスのみではネガティブジェットのために十分に描出はできずセカンドパスまでかけて造影剤を入れて撮影していると、当院へ来てもらっているI技師に教えていただきました。一般的に他の臓器ではファーストパスのみでの診断は難しいということです。左房内血栓の描出を当初ファーストパスのみで診断しようと考えられたのは冠動脈CTの慣習からだったのではないかと思います。中西先生の時の報告でもファーストパスからセカンドパスにかけての造影剤の注入でした。仰臥位では報告がありませんが、腹臥位では造影剤を大量に高速で注入すればファーストパスだけで左房内血栓が正診率100%診断できる報告があります。しかしそうまでしなくても、腹臥位1分遅延相造影で過剰なほどに左心耳に造影剤が貯留します。仰臥位遅延相より腹臥位遅延相のほうが造影剤が少なくできる可能性があり、腹臥位心臓CTは腎機能の悪いかたに有用と考えられます。
我々の報告の早期相ようにセカンドパスまで少量ずつ注入して撮影すると造影剤のムラの少ないきれいな写真が得られますが、仰臥位で偽陽性があり、腹臥位では偽陽性はありません。
仰臥位遅延相で偽陽性があった症例を腹臥位遅延相で取り直した症例報告がふたつあり、陰性が示されました。ともにTEEで血栓疑いの診断でした。Kawajiらの報告と合わせて、これらの報告は腹臥位遅延相CTが左房内血栓の診断のgold standardとされるTEEを超える診断能を持つことを示しています。
腹臥位の短所としてアブレーション用の左房3DCTが上下逆の問題がありますが、その対処法は既述しました。仰臥位から腹臥位に体位変換をするときにスカウトビューの位置と変わる可能性はあります。腹臥位になってからスカウトビューを取り直すと安心かもしれません。
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[腹臥位遅延相心臓CTの診断能]
はじめにCT仰臥位早期相のみで診断されていたときの診断能についてです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28740038/
2017年国立病院機構東京医療センターのIkegamiらは95人の患者でアブレーション前に64列CT仰臥位早期相を施行し、11人にTEEで血栓やスラッジがあり、4人に心腔内エコーで血栓を認めました。TEEと心腔内エコーをリファレンスとしてCTの診断能は感度100%、特異度81%、陽性的中率40.7%、陰性的中率は100%であり、CTには良好な感度と陰性的中率があると報告しています。
前述の日本大学大学院黒沼圭一郎先生の論文で320列CTの仰臥位早期相の診断能は感度100%、特異度74.4%、陽性的中率18.5%、陰性的中率が100%、です。仰臥位早期相ではやはり感度と陰性的中率が100%であり、CTの特徴といえます。この2項目はアブレーションの合併症予防に大切な項目です。
「日本循環器学会ガイドライン:2021年改訂版循環器超音波検査の適応と判読ガイドラインp20にCQ:心臓造影CTにて左心耳内血栓の存在が否定的な場合にTEEを施行しなくてよいのか」という記載の中に、CTの偽陰性の報告が示されています。
私はCTの偽陰性の原因について考えました。例えばスライス厚が6mmmの時に3mmの血栓がある場合、または血栓が2断面にうすく分割されて撮影された場合、血栓は偽陰性になるのではないでしょうか。また数心拍を要する撮影では、心房細動の場合連続断面にならずにすき間ができて偽陰性をきたす可能性も考えられます。256列CTや320列CTなど高機能CTでは、1心拍で撮影完了し
スライス厚が0.5~0.625mmの連続断面になっているので偽陰性がないのではないかと思われます。CTの偽陰性の報告は古い機種で起こりえたものと考えます。既述しましたがCTによる血栓の偽陰性:遅延相において心腔内が造影が十分になされないと起こります。仰臥位遅延相での報告がされました。
冠動脈CTのような短時間で少量の注入で発生します。14-20数秒かけて注入し50mlから75mlは必要です。
またTEEをgold standardとしたCTの診断能は、TEEが絶対的な真ではないために限界があると考えられます。
TEEでは心臓手術と比較した前述の1993年の台湾の報告で陰性的中率が98.9%でした。CTの結果はTEEと比較したものなのでTEEを超えるかどうかは不明です。僧帽弁狭窄症で手術する症例が減っているので、真実の定義が術後のイベントやICE、D-ダイマーで定義することになるのでしょうか。しかしD-ダイマーが低くても血栓がある報告があるとのことで難しい問題だと思います。
仰臥位遅延相の成績は感度と陰性的中率が100%だけでなく、陽性的中率と特異度が100%の報告がありますがすべてではありません。
腹臥位早期相ではトルコの報告で4項目すべて100%です。
仰臥位と腹臥位の遅延相でのKawajiらの報告では数値として示されていませんが、偽陽性がなく特異度100%といえます。血栓がないので感度と陽性的中率は示せません。陰性的中率も100%と考えられます。
腹臥位遅延相のNakamuraらの報告でも数値として示されていませんが、抗凝固療法による造影欠損の消失と心腔内エコーをリファレンスとして感度100%特異度100%陽性的中率100%陰性的中率100%と考えられます。
総じて心臓CTの左房内血栓の診断能は早期相で感度と陰性的中率が100%であり、少ない報告ですが腹臥位遅延相にすることで偽陽性がないので特異度100%になり、血栓症例が少ないですが陽性的中率100%に改善します。これからの報告を期待しています。
注意すべきこととして病気はTEEやICEで定義されており、それが100%の真実ではないので、これらの診断能には限界があると思われます。これまで仰臥位CTでは偽陽性をTEEによって陰性と判断されてきましたが、逆にTEEの偽陽性を腹臥位遅延相CTで陰性と判断できた報告が3例あり、TEEを絶対視できないことが症例報告でも明らかになりました。1993年台湾のHwangらの報告でTEEでは感度93.3%特異度100%陽性的中率100%陰性的中率98.9%でしたが、症例報告はTEEの特異度や陽性的中率が100%でない場合があることを示しました。
心房細動の冠動脈CTが可能になっているほどCTは高機能化し鮮明な画像が得られますので、これから腹臥位CTの報告が増えればいつか左房内血栓の診断のゴールドスタンダードはTEEから(腹臥位遅延相)CTに変わるのではないかと想像しています。
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10.おわりに
我々の腹臥位心臓CTは20年以上前におこなったものです。今思うとよくその時代にこの研究が発表できたものだなあと思います。当時はEBTがある病院でしか心臓CTはできませんでした。日本で30数台のEBTがある病院のうち、1999年に心房細動カテーテルアブレーションをしていた病院がいくつあったでしょうか。その状況を体験させていただいた稀有な循環器科医師として、また国循で遅延相を研修させていただいた医師として、この撮影法の試みは必然であったと感じております。今や年間10万件以上のカテーテルアブレーションが施行され、そのうち2/3以上は心房細動アブレーションと思われます。造影CTも腎機能が悪くなければおこなわれているはずです。左心耳閉鎖術も始まっており、左房内血栓の診断は重要性が増しています。私は20年経過した今になって腹臥位遅延相心臓CTを広めることに使命感を感じています。
東京ハートラボ 動画ライブラリー 有料配信 2021年5月19日 左心耳の治療戦略のなかで、三井記念病院の阿佐美匡彦先生と田中旬先生は、経皮的左心耳閉鎖術デバイスWatchmanの講演で、心臓造影CTを腹臥位で施行していると報告されています。
(動画1:20より)
https://www.youtube.com/watch?v=mEJxRwD2nB0
https://www.youtube.com/watch?v=_Pu-uSnrOxk
一方外科的にはウルフ-オオツカ低侵襲心房細動手術が行われるようになっています。ニューハートワタナベ国際病院の大塚俊哉先生が開発され、全国に広められています。この治療法の術前検査にはTEEは不要で、造影CTも場合により施行せず手術できると紹介されています。左心耳を切除するので手術直後から抗凝固療法が不要になり、カテーテルアブレーションや抗凝固療法のリスクを知ったかた(とくに医療従事者?既往歴に大出血、脳出血、心源性脳塞栓症があるかたなど)に広まっていく治療法だと思われます。
http://newheart.jp/blog/archives/792/
https://twitter.com/heartsurgeonjp
大塚先生はtwitterのなかで、2022年仰臥位早期相CTの左房内血栓疑いの紹介症例を提示され、遅延相が必要であることを書かれています。遅延相の重要性が大学病院でさえ知られていない現状があったようです。30年近く前に遅延相撮影の発祥の地で研修を受けた者として、世の中に広く伝えることの難しさを感じます。この手術が広く普及した場合にも、TEEはされなくても造影CTは必要とされていくと思われます。大塚先生は著書「心臓は”切らない手術”で治しなさい」の中でp167「造影剤を使う心臓CT検査は、撮影のタイミングに経験が必要ですが、血栓の有無を捉える検査としてもっとも有用です。」と書かれています。私は今後この手術の術前検査でも腹臥位遅延相CTは有用と考えます。
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じつは私は腹臥位遅延相CTが一度大塚先生の手術に役立ったのではないかと考えています。
大塚先生の本で、先生のご経歴に 2003-20年都立多摩総合医療センター心臓血管外科部長 と書いてあります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscva/24/1/24_2019-3-021/_pdf
2020年東京都立多摩総合医療センター藤井らの症例報告の論文 仰臥位遅延相CTの血栓疑いかつTEEの血栓疑いが腹臥位遅延相CTで陰性とされ、左心耳切除術で血栓は認められませんでした。
と、私が腹臥位の症例報告で引用した文献の施設で、そのときに所属しておられたと思われます。2014年に学会発表をされています。
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また外科的治療では、atriclipというクリップで左心耳を閉鎖する手術も施行されています。以前名古屋ハートセンターにおられお世話になった米田正始先生の記事を紹介させていただきます。
https://www.shinzougekashujutsu.com/appendage_closure
おそらく創意工夫で自分で考えて腹臥位CTをされている施設がほかにもあると思われます。しかしどうして左房内血栓の腹臥位CTの成績が検索をかけても世界中で上記しかでてこないのか、有用性の症例報告どまりなのか、不思議に思ってきました。
私の考察ですが1993年の中西先生の遅延相の有用性が伝わるのに20年かかっていますので、2003年の我々の報告もそろそろかもしれません。遅延相がわずか1分で撮影された場合には中西先生の情報は伝わってないとも考えられます。
腹臥位心臓CTでは今のところ遅延相で腹臥位にしてから1分から5分以内に偽陽性はありません。TEEを施行して「異常ありませんでした。よかったです。」というかたへTEEを施行することがなくなります。
心房細動アブレーション、左心耳閉鎖術(切除術)やTAVIの前の検査法として、腹臥位心臓CTを多くの方々に知っていただき、(仰臥位の早期相で冠動脈CTとアブレーション用左房3D画像を作成し、)腹臥位の遅延相での撮影による左房内血栓の陽性的中率、または有病率の低い場合には偽陽性率の報告をぜひ英文でしてほしいと思います。(できれば検索で見つかるように表題にprone
positionを入れていただくとありがたいです。)
そして腹臥位心臓CTが認められて広まり、左房内血栓が偽陽性のためのTEEの施行が減ることを期待します。またgold standardのTEEを超える診断能が腹臥位遅延相CTにありますので、腹臥位遅延相CTで左房内血栓が否定できずガイドラインにしたがってTEEを施行して陰性と診断した場合でも、TEEの偽陰性の可能性と事故の重大性を考慮しアブレーション、左心耳閉鎖術(切除術)やTAVIの延期を検討していただくことが望ましいと考えられます。
最後になりますが、より安全な心房細動アブレーション、左心耳閉鎖術(切除術)とTAVIが普及することを祈念いたします。
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2022.5.9 山上祥司
e-mail:shoji777アットマークnifty.com アットマークを@に変換してください。
11.医療事故から学ぶ
上記について当院へ研修にこられたDrに話しています。自分で失敗して学ぶのでは被害者や犠牲者が出ます。医療事故の教訓を生かすために、あらかじめこれまでの医療事故を知って同じことを繰り返さないようにするにはどうしたらよいか考えておくことが必要です。日頃から報道や職場の先輩の方々より医療事故の情報を得るようにお勧めしています。若い医師の方々にぜひ医療事故から学ぶことの大切さを知ってもらいたいと思います。
日本医療安全機構:医療事故の再発防止に向けた提言 が公開されています。
https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=1
カテーテルアブレーション
https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=74
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12.追記 愛知県立尾張病院について
もともとは結核療養所として1957年尾張病院が開設されました。
1985年心臓外科創設。愛知県の循環器病センター創設が目標でした。
19951993年新病棟完成 このとき循環器科が4人増員され私も採用されました。
2005年愛知県立循環器呼吸器病センターに改称。
2010年9月30日閉院となりました。
当時肺静脈や左房のアブレーションの前後で私がEBTを担当していました。岡田太郎先生(現岡田医院:関市)がそのデータを解析し、立案。2007年にアブレーション後の左房浮腫についての論文を発表しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109707002318?via%3Dihub
へのリンク
私の勤めていたころの不整脈チームの方々のネットの記事がありますのでリンクを貼らせていただきます。心房細動アブレーション黎明期から活躍され,現在優秀な指導者になっておられる方々です。尾張病院で一緒に仕事をさせていただいたことを誇りに思っております。
院長は名大環境医学研究所元教授外山淳治先生でした。
また尾張病院で早い時期からカテーテルアブレーションができたきっかけは心臓外科碓氷章彦先生の働きがありました。カナダへ留学され尾張病院でメイズ手術など不整脈の外科手術をされました。その後名古屋大学心臓血管外科教授になられ、現在は藤田医科大学岡崎医療センター教授です。当院のI技師は大垣市民病院から碓氷先生を慕って尾張病院へ来られたかたです。
下記の村上善正先生の記事に尾張病院でアブレーションが始まった経緯が書かれています。
https://nagoya.heart-center.or.jp/staff/toyama.html
https://zuiyukai.com/notice/prize/greeting/25
https://clintal.com/doctor/10334
https://medical.jiji.com/doctor/2073
https://health.usnews.com/doctors/takumi-yamada-2613295
https://ocw.nagoya-u.jp/files/853/slide1.pdf
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13.お断り
このホームページの文章には論文と違い査読がなく間違いがある可能性があります。特に論文の読解について原文の参照をお願いいたします。気づいたら訂正や推敲をしております。申し訳ございません。
2022.5.11改変
2022.5.15改変 中西先生ハイサゲール先生の文献追加 血液比重正常値追加 Merit Kantarciらの報告追加
2022.5.20文章の推敲 Rena Nakamuraの文献の考察
2022.5.21 Rena Nakamuraの文献の考察、造影の目的による撮影方法の考察追加
2022.5.22 5.23後期相を遅延相に書き換え 造影の目的による撮影方法の考察の推敲 全体の推敲 愛知県立尾張病院についてを追加
2022.5.24 Rena Nakamuraとの陽性的中率の違いをパスで説明
2022.5.25 CTによる左房内血栓の描出のまとめを追加
2022.5.27 5.28文章の推敲
2022.5.30 Mecit Kantarciらの造影剤注入についてと考察追加、Rena Nakamuraらの早期相のCDのCT値について
2022.5.31 6.1最後にの推敲 全体の推敲
2022.6.3 考察で陽性を陰性に訂正
2022.6.6 三井記念病院の腹臥位CTの記事を追加、偽陽性のおこる理由を追加
2022.6.12 大屋らの報告を追加
2022.6.14 愛知県立循環器呼吸器病センター岡田らの論文を追加
2022.6.19 我々の造影方法を少し具体的に記載
2022.6.21 推奨の撮影法であるKawaji Tらの文献の追加 船橋伸禎先生のアドバイスを追加
2022.6.23 心房細動アブレーションのための撮影方法の見出し作成 目次作成 副題:心房細動カテーテルアブレーションにどう活かすかを追加
2022.6.23 Kawaji Tらの撮影方法の追加
2022.6.24 6.25最後にを書き換え
2022.6.28 7.4まとめの書き換え
2022.7.8 造影の目的による撮影方法の考察で腹臥位の心耳の血液の浮き上がる描写を追加
2022.7.9 7.8の訂正を消去 造影の目的による撮影方法の考察を大きく書き換え
2022.8.18 TEEについて久永光造先生、松﨑益徳先生の記事を追加 内視鏡付きTEEの開発希望の記載
2022.8.25 腹臥位の症例報告を追加
2022.9.1 低線量による仰臥位遅延相の良好な診断能を記載
2022.9.4-5 仰臥位遅延相の文献を追加 まとめの書き換え
2022.9.6 医療事故から学ぶを追加 最後にへ1分後遅延相の造影について追加
2022.9.10 9.14 最後にを書き換え
2022.9.17 まとめに仰臥位CTとに比較した腹臥位CTの長所と短所を追加 遅延造影撮影の有用性に[TEE偽陰性の重大性]を追加
2022.9.20 全体の推敲
2022.9.21 (抄録→)要旨の追加
2022.9.27 引用文献の診断能の転記ミスの修正
2022.10.8 感想の追加
2022.10.9 読んでくださったかたへのお願い 感想改変
2022.10.12 造影の目的による撮影方法の考察で冠動脈CTの造影剤の少ない表現を削除し書き換え。
2022.10.14 症例報告に新潟循環器談話会の抄録リンク追加
2022.10.17 我々の撮影方法を3mm厚3mmピッチに変更 2mmピッチは冠動脈CTの撮影でした。
症例報告に浦添総合病院の報告を追加 はがきまたは広告の原稿を追加
2022.10.19 おわりにの書き換え 腹臥位の拡がりの遅い理由の変更
2022.10.28 中西先生の論文の最初の説明の「造影中の40-60秒の」 から「40-60秒の造影中の」に訂正 症例報告の出典の記載
2022.10.31 「要旨」と「おわりに」で、アブレーションを「しない」から「延期する」に変更 腹臥位の長所と短所に説明文を追加
2022.11.1 腹臥位遅延相心臓CTの診断能の追加
2022.11.26 心臓外科碓氷章彦先生の記載 要旨の推敲
2022.11.27 おわりにの書き換え 不整脈心電学会地方会に広告を載せる話を追加 要旨の推敲
2022.12.1 要旨の推敲
2022.12.2 TEE偽陰性の重大性の推敲 TEE横断面客観的診断法の提案の追加
2022.12.5 TEE偽陰性の重大性の推敲 仰臥位CTと比較した腹臥位CTの長所と短所の推敲
2022.12.14 三井記念病院放射線検査部の腹臥位CTの症例記事追加 症例報告の推敲 造影の目的による撮影方法の考察の推敲
2022.12.15 要旨の推敲
2022.12.18 要旨と仰臥位CTと比較した腹臥位CTの長所と短所の推敲
2022.12.19 経食道心エコーの危険性の推敲
2022.12.25 TEE横断面客観的診断法にシリンジポンプの案を追加
2023.1.3 要旨の推敲、心房細動カテーテルアブレーションのための撮影方法の推敲
2023.1.4 経食道心エコーの危険性に2021年国立病院機構大阪医療センターの井上耕一先生の論文の追加 副題を経食道心エコーを超える診断能がある腹臥位遅延相CTを心房細動カテーテルアブレーションにどう活かすかに書き換え
2023.1.5 腹臥位遅延相心臓CTの診断能の推敲
2023.1.7 V. Kocaの報告を追加
2023.1.13 要旨:陰影欠損を造影欠損に訂正
2023.1.14 腹臥位遅延相心臓CTの診断能で偽陰性を偽陽性に訂正
2023.1.25 おわりににウルフ-オオツカ低侵襲心房細動手術を追加
2023.1.27 おわりにの推敲
2023.2.6 Luis Arabiaらの報告を追加
2023.2.11 おわりにの推敲
2023.2.14 心臓造影CTでの腹臥位の有用性の推敲
2023.2.16 ポイントを追加
2023.2.17 2.18 ポイントの書き換え
2023.2.19 2.20 低線量を低い被ばくモードに書き換え 船橋先生のアドバイスの書き換え
2023.2.21 2.22 2.27 3.20 4.25ポイントの書き換え
2023.5.22 造影の目的による撮影方法の考察で冠動脈CTで左房内血栓の描出には造影剤の量を50-75mlを追加
2023.5.30 仰臥位CTと比較した腹臥位CTの長所と短所、はじめにの書き換え
2023.6.2 6.3 対象の術式に心房細動カテーテルアブレーションのほかに左心耳閉鎖術(切除術)とTAVIを追加
2023.6.7 米田正始先生の記事をおわりにに追加
2023.6.27 腹臥位CTまでの経緯に尾張病院と不整脈担当医の記事を追加
2023.6.30 経食道心エコーの危険性(侵襲的検査) 食道穿孔の頻度を0.01-0.03%から0.01%以下に書き換え
症例報告2022年追加
2023.7.3 浜松赤十字病院の報告追加
2023.7.5 経食道心エコーの危険性(侵襲的検査)の推敲
2023.7.21 要旨の推敲
2023.7.24 腹臥位遅延相心臓CTの診断能 にCTの偽陰性の考察を追加 要旨の推敲
2023.8.13 8.18 CTとTEEの画像の比較 を追加、推敲
2023.9.30 経食道心エコーの危険性(侵襲的検査)の推敲
2023.10.10 10.11 10.20 CTとTEEの画像の比較の推敲 表題をCTとTEEの画像診断の比較に変更 櫛状筋と血栓の鑑別
2024.2.6 日本医療機能評価機構のTEEの死亡報告数を追加
2024.2.8 CTが非侵襲的検査であることをところどころ強調
2024.3.2 3.6 3.11 3.12 3.14 3.15 3.16 3.21 3.24 3.25 3.27 3.28 3.30 4.1 4.9胃内視鏡が侵襲的検査であることを記載
「内視鏡付き経食道心エコーの開発の要望を」を追加
2024.5.30 「内視鏡付き経食道心エコーの開発の要望を」に食道造影を追加
2024.8.22 8.26 8.30 9.2CTによる血栓の偽陰性を追加 腹臥位遅延相CTの診断能の書き換え
2024.9.1 「心房細動症例における心臓遅延造影撮影の有用性」に適切なプロトコールの内容の項目を最後に追加
2024.9.9 9.2CTによる血栓の偽陰性の書き換え
2024.9.11 CTによる左房内血栓の描出のまとめの書き換え
2024.9.16 要旨にCTの偽陰性の報告を赤字で追加
2024.9.24 「これまでどおり造影剤を増量し注入時間を延長した冠動脈CT」 に変更
2024.9.25 山田功先生の所属先の変更
2024.9.27 要旨に「適切なプロトコルによる」を追加
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14.感想
私が尾張病院から5km離れた地元に開業して20年が経過するところです。これまでCTとは無縁で通常の循環器診療と在宅療養支援診療所の仕事に携わってきました。心房細動アブレーション前の心臓CTについては20年前の我々の経験から、腹臥位しかないと思ってきました。
私も60代になり人生を振り返ることが多くなりました。腹臥位心臓CTはどうなったのか検索をかけてみました。当初症例報告以外にはトルコの報告と横浜市立みなと赤十字病院の報告の2つしか見つけることはできませんでした。自分にとって左房内血栓の描出は腹臥位しか考えられません。大丈夫かと心配になりました。私の通院患者さんに心臓手術のときにTEEで咽頭穿孔のかたがあり、CTで左房内血栓が疑われればTEEがされると知っていたからです。20年近く経過しましたが偽陽性でTEEをすることをなくすことができる腹臥位心臓CTをもっと早く多くのかたに知ってもらうべきだったことに気づき、HPに掲載することにしました。
最近の報告を調べて私にとって驚いたことは、仰臥位腹臥位とも造影剤を入れて30秒と1分の2回の撮影で判断されていたことです。私のときの仰臥位は1分間注入で40秒から1分10秒までの撮影が早期相、造影5分後が遅延相でした。5分でも仰臥位では左心耳の造影には不十分でもう少し後の撮影なら左房内血栓の偽陽性がなくなったのではないかと考えていたくらいです。それが仰臥位でも腹臥位でも1分で判断されていたのです。また横浜では腹臥位の早期相の偽陽性が多いのにも驚きでした。われわれの早期では偽陽性はなかったからです。
HPに上げて書き足していくうちに、撮影時間が我々と現在は違うことに気づきました。現在は早期相がファーストパス、遅延相がセカンドパスの撮影、我々の早期相はファーストパス+セカンドパスの撮影ということがわかり結果の違いが納得できました。
1分で遅延相を判定するとは私には考えられないことでした。大量急速注入をすることによりわずか1分で仰臥位でも偽陽性がなくなることが理解できました。これは冠動脈CTの慣習からなされているものではないかと思いました。撮影写真をみても造影剤のむらが私のころと比べて早期相も遅延相もひどいと感じました。心房細動の冠動脈CTが撮影できるようになったのは最近のことですので、冠動脈CTをとるつもりでもなく冠動脈CTの撮影方法が取られてきたのではないかと考えました。冠動脈CTを作らないのであれば我々のときの撮影方法がきれいな早期相、遅延相が撮影できます。
HPに上げてからほかの循環器Drの意見が聞きたいと思い、よく紹介するDrに電話をかけてお聞きしてみました。私のHPをすでに見ておられたとのことでした。
するとCTは遅延相で間に合っているとのことと、アブレーション用の3D画像が腹臥位では使えないことを指摘してくださいました。撃沈しました。しかし本文に書いたCTとTEEをうけてアブレーションをされた患者さんはその病院でお世話になった方でした。気を取り直して考えたことが「心房細動カテーテルアブレーションのための撮影方法」に書いたように早期相を仰臥位で、遅延相を腹臥位での撮影することでした。そこで三菱京都病院の報告に出会いました。なんと私が今回思い描いたことがすでに実行され論文になっていたのです。またTEEを超えるCTの診断能を示され驚きました。さらに腹臥位の根拠とされた引用文献に我々の報告があったのです。感激して涙がでてきました。こんな喜びは初めてでした。HPにどんどん書き加えていきました。近くの先生のご指摘で心房細動カテーテルアブレーションに活かす検査法を見つけることができ、表題も書き換えることができました。ご指摘に感謝しております。
三菱京都病院の報告をみると前半の半分の症例は早期相のみの撮影だったようです。1993年の中西先生の遅延相の発表が2016年にまだ広がってはいなかったということです。世界的にどれだけ多くの左房内血栓の偽陽性がでていたことかと思います。中西先生や我々の報告とは別に、冠動脈CTの撮影方法から1分の遅延相が進化したものと思います。最近遅延相が普及してきているとは思いますが、1分の遅延相で判定されているところが多いと思われます。すべての仰臥位遅延相の報告が正診率100%ならばよいのですが、条件を合わせることができていないためか100%ではない報告があります。遅延相ももっと遅くの平衡相に撮影すれば偽陽性が減るはずです。腹臥位遅延相で遅くならば浦添総合病院のようなむらのない写真が撮れると思います。https://www.ebm-library.jp/circ/special/index.html
しかし我々のときと違って造影剤の波があります。遅くでは波が低くなった時の撮影では困ります。腹臥位心臓CTならば大量急速注入でなくても遅延相で偽陽性がなくせます。仰臥位遅延相が伝わるのが20数年かかったり、20年経過して症例報告以外の腹臥位の報告が4件しかないとは、人に伝えることは難しいものだなあと思いました。
私は一般内科医として勤務した時代にはよく胃内視鏡、大腸内視鏡やERCPを行っていました。尾張病院でも消化器の人手不足で胃内視鏡を手伝っていました。研修医時代大学病院2年間でいつも先輩Drのファイバーにアダプタをつけて観察させていただいて頭でのバーチャルトレーニングを積んでいました。内視鏡の事故はよく聞いていましたが、TEEの事故のことは最近まで知りませんでした。ERCPとTEEは挿入方法が同じのため経験が役立ちます。今回TEEに内視鏡がついているのではないかと思い検索をかけましたがみつかりません。近くの循環器Drが当院に来られた時にお尋ねしましたがないとのことでした。リモコンで動く大腸カメラや、内視鏡つきTEEはいつかできるのではないかと思い描いてきましたが、いまだにできていないようです。ぜひ日本で開発をしていただきたいと願っております。
ネットでアブレーションの脳塞栓の事故を見て「偽陽性と偽陰性」の問題を考えました。偽陽性は「病気はなくてよかったね」で患者さんは安心されることがらです。しっかり診断できれば不必要な心配です。しかしそれを調べるためにTEEというリスクを冒すことが必要です。偽陽性がなければリスクを防ぐことができます。
偽陰性はインフルエンザキットやコロナ抗原検査とは意味合いが大きく違います。あとで感染していた本人の病気が発症するだけの問題と、医療行為により新たに塞栓症という病気を引き起こすという違いです。左房内血栓があればアブレーションをすると塞栓症を引き起こします。心房細動自体がすぐに命にかかわることはないのに、アブレーションの合併症で重症の脳塞栓を起こすことを患者さんは理解されているのでしょうか。きちんときれいなCT画像を示して患者さんに納得をして受けてもらいたいと思います。血栓が否定できなければ抗凝固を継続してCTの再検査で判定することが安全と思います。
ここで統計について考えてみます。
感度%=100%-偽陰性率%
特異度%=100%-偽陽性率%
CTの特徴は感度100%です。すなわち偽陰性はないということです。つまり病気である左房内血栓はすべてCTで診断できることになります。感度100%であれば自動的に陰性的中率は100%です。
CTの結果にしたがってアブレーションを行えばもともとある左房内血栓による脳塞栓はおこらないことになります。しかし偽陽性の症例をアブレーションしないことになるためTEEでさらに診断されてきました。そこでTEEで陰性と診断した場合、その診断は責任重大で、TEEの術者の判断が誤った場合や、TEEの偽陰性の場合に、せっかく高いCTの感度を否定して事故を招くことになります。人間は100%正しく判断はできません。
事故を防ぐためにはCTの結果に従うことが重要と考えられます。問題はCTには早期相のみではこれまで偽陽性が多いことでした。そのためにアブレーションが受けられないかたが多くいることになります。そこでCTの偽陽性を減らすことが重要であることがわかります。腹臥位遅延相や仰臥位遅延相で偽陽性をなくすか減らして、CTのみの結果でアブレーションを決めることが、脳塞栓やTEEの事故防止には安心ということになります。
左房内血栓は経胸壁心エコーでは1993年の台湾の報告で57%しか診断できませんでした。TEEでは99%診断できますが1%はできませんでした。当時のCTではEBTがまだあまり普及していませんでしたのでTEEが左房内血栓の診断で重要な役割を果たしてきました。その後CTが急速に進歩し現在では心房細動の冠動脈CTを一瞬で撮影できる状況です。
左房内血栓の診断の標準的な検査はTEEからCTにとって代わる時期になっていると思います。
胃がんが内視鏡だけでなく胃透視も併用して診断されるように、左房内血栓もCTだけでなくTEEも使って診断することは続くと思います。腹臥位CTが普及すれば、偽陽性がなくなるためかつ有病率が低いためにTEEを施行する機会が減って、循環器科医がTEEをトレーニングすることが困難になるかもしれません。CTには腎機能が悪いと施行できない欠点があり、そのときにはTEEのみで診断されることになり役割は重いものになります。TEEのみで診断が安全に確実にできるようにどこで研修するのか、将来検討が必要になると想像します。
今後は、せっかく高い感度であるCTの結果を否定してTEEで陰性と診断して手術をすることは絶対に避けていただき、安全な手術をしていただくように願っています。
また書き足すと思います。
お読みいただきありがとうございました。
手術が無事になされますように。
2022.10.8 やまかみ内科循環器科 山上祥司
2022.10.11 追加の記載
2022.11.20 統計の記載
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[読んでくださったかたへのお願い]
最後にこのHPを読んでくださったかたにお願いがあります。20年経過しても腹臥位CTは広まりませんでした。私はすでに学会で発表した方法なのでいまさら学会にだすこともできません。もし心房細動アブレーションをしておられる不整脈の先生に診てもらっているかたがおられましたら「遅延相の腹臥位心臓CT」をご存じか聞いていただけないでしょうか。もしご存じないようでしたら、「CTの左房内血栓の偽陽性を安全かつ簡便に全くなくす方法で、それを報告した医師がホ-ムページを読んでいただきたいと言っていた」といって私のHPか「腹臥位心臓CT」を検索していただくように先生に紹介してもらえたらと思います。厚かましいお願いで恐縮ですが、心房細動アブレーションなどでの脳塞栓の合併症を減らしたり、経食道心エコーの事故を減らすことができると思いますのでよろしくお願いいたします。
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[はがきまたは広告の原稿]
全国の心臓CTのある病院に出したい気持ちで一杯です。しかしこれまで見たことがないのでこちらに掲載します。全国に伝わりますように。
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